ダウ・ケミカルとデュポンの統合から学ぶ
ダウ・ケミカルとデュポンの統合
アメリカの総合化学大手のダウ・ケミカルとデュポンが統合を発表しました。
ダウ・ケミカルは売上高581億ドル、売上高純利益率6.5%、デュポンは売上高347億ドル、売上高純利益率10%という巨大企業、かつ、利益率も高い企業です。
ちなみに、日本の化学最大手の三菱ケミカルホールディングスは売上高3兆6千億円、売上高純利益率1.6%です。
このように世界の化学業界をリードする企業同士が統合する背景には「モノ言う株主(アクティビスト)」の存在があると報じられています。
モノ言う株主は是か非か
上場企業は株式を公開し、自由に株式を売買することにより、株主が入れ替わっていきます。
その中で、物言う株主は、株主として、会社経営に意見したり、株主総会で独自の議案を提出したりして経営改革を迫ります。
日本では、約10年前のホリエモン騒動や村上ファンドのことを想起する方が多く、あまり良いイメージを持たれないことと思います。
確かに、経営陣や従業員と対立するモノ言う株主には良いイメージを持てません。
一方で、何もモノを言わない株主というのも問題なのではないでしょうか。
会社が更なる成長の機会があるのにもかかわらず、現業に執着して体制を変えなかったり、経営者が個人的な思い入れのみで経営判断していたりした場合、株主がその会社をより良くしたいと考え出資を続けるのであれば、何かしら改善提案することは自然なことと思います。
中小企業の経営にモノを言う人はいるのか?
翻って、上場していない中小企業において、会社の経営方針にモノを言ってくれる人はいますでしょうか?
株主、役員、従業員、社外の4者について考えてみましょう。
同族企業であれば、株主は親族に限られる場合が多く、株主総会と家族会議の区別もないため、踏み込んだ議論はなかなか行われません。
役員も株主同様、親族が多いため、株主と同じような状況です。
また、株式会社を名乗っていてもその実質は個人事業と大して変わらない会社も多く、役員であっても経営者に対して意見することが難しい場合も多々あります。
従業員の発言力に期待することは難しいです。従業員が自由に発言しやすいように社内の雰囲気を経営者が率先して作っていかない限り、従業員は発言しにくいものです。
社外の得意先や仕入先は、会社の経営に口を出すことは基本的にありません。
金融機関は資金繰りが厳しくなって、融資した貸付金(会社にとっては借入金)の回収が難しくなると、経営改善を厳しく迫ります。
顧問税理士は基本業務が税務申告に関する決算作業や納税計算ですので、経営改善についてはあくまでプラスアルファのオプション業務です。
経営コンサルは、会社が報酬を支払って経営改善に対するアドバイスを受けるわけですが、経営者にとって耳の痛い話を次から次へとするコンサルタントとわざわざ契約するのはなかなか気が進まないものです。
このように考えますと、中小企業の経営者は社外の経営コンサルなどにお金を払ってでも耳の痛い話を聞こうとしない限り、モノを言う人に出会えないのではないでしょうか。
経営者には耳の痛い話ほど届かない
中小企業の経営者にとって耳の痛い話を誰が進んでするでしょうか?
親族の株主や役員、従業員など、日ごろ顔を合わせる関係の場合、意見が対立したり、経営者を不機嫌にしてしまったりすることを好んでする人はいないと思います。
でも、会社経営を改善するために経営者にモノを言うことは必要なので、誰かが言わないといけません。
簡単に言えば、悪役を買って出ないといけません。
悪役という意味では、社外の人間を活用するのが最も良いと考えます。
社外の人間は会社に嫌がらせをしたいのではなく、経営改善のために社長の不興を買ってでも意見を提示します。
そして、たとえ社長に嫌われることがあっても、経営者に耳の痛い話を届けることができます。
これは顧客のクレームと似ています。
性質の悪いクレーマーのクレームは会社にとって有害で、ただの嫌がらせに過ぎませんので論外です。
ちゃんとしたクレーマーは会社に対する要望、期待をクレームという形で会社に改善点を気付かせてくれます。
そして、最も怖いのがモノ言わぬクレーマーです。これは、もう二度とその会社の商品やサービスを利用しない顧客です。
ちゃんとしたクレーマーは会社が改善さえすれば、会社の熱烈なファンとなってくれる可能性があります。
しかし、モノ言わぬクレーマーは、二度と利用してくれないので改善したことを伝えることができません。
このように考えますと、経営者の周りにはモノを言う人を何とかしてでも確保する必要があります。
経営者の気分を良くする話は無益ですが、耳の痛い話は有益ですので、積極的に聞くようにしたいですね。