【税制改正2021】住宅取得資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について
今回は、2015年より創設されている住宅取得にかかるお金の一括贈与を受けたときに贈与税が非課税になる制度の税制改正の解説です。
(1)非課税限度額の増額
①耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋
消費税等の税率 10%が適用される住宅用家屋の新築等 |
改正前 1,200万円➡改正後 1,500万円 (東日本大震災により被害を受けられた方 1,500万円) |
上記以外(個人間売買等により中古住宅を取得した場合など) |
改正前 800万円➡改正後 1,000万円 (東日本大震災により被害を受けられた方 1,500万円) |
②一般住宅
消費税等の税率 10%が適用される住宅用家屋の新築等 |
改正前 700万円➡改正後 1,000万円 (東日本大震災により被害を受けられた方1,000万円) |
上記以外(個人間売買等により中古住宅を取得した場合など) |
改正前 300万円➡改正後 500万円 (東日本大震災により被害を受けられた方1,000万円) |
当初は2021年4月1日より改正前の金額に減額する予定でした。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で経済が落ち込む中での景気刺激策のため、減額は行わないこととなりました。
適用時期は2021年4月1日から2021年12月31日です。
今回の税制改正で適用期限は延長されませんので、ご注意ください。
(2)住宅家屋の床面積要件の下限の引き下げ
受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
1,000万円超2,000万円以下 | 住宅用家屋の登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下 | 住宅用家屋の登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下 |
1,000万円以下 | 同上 | 住宅用家屋の登記簿上の床面積40㎡以上240㎡以下 |
これは、住宅ローン控除で40㎡以上の住宅を適用対象に加えたことに併せての改正です。
こちらも景気対策のため、一人暮らし世帯からでも購入できるようにして景気を下支えしようと考えてるようです。
適用時期は2021年1月1日から2021年12月31日です。
改正点は上記2つです。
非課税限度額の据置きと床面積要件の引き下げという2つの緩和がなされました。
税制改正が行われた背景
そもそも、住宅所得資金の非課税制度とはどのようなものでしょう?
住宅取得資金目的限定ではありますが、祖父母等から孫等への最大1,500万円までの一括贈与が非課税となる制度です。
わが国では多くの金融資産を60歳以上の世帯が保有しています。
その資産をより消費性向の高い若年層に移転することによって、消費拡大を通じた経済を活性化しようと本制度は創設されました。
また、省エネ等住宅の普及を促していきたいという目的もあったと考えます。
一方、富裕層のための節税目的の手法に対する優遇措置であり批判の声も挙がっていました。
そのため、これまでの税制改正で過度な節税目的の利用を防ぐため適用条件を見直し、優遇措置の内容に一定の制限が加えられてきました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響で経済が落ち込む中での景気刺激策が必要となりました。
そこで、今回の税制改正では、予定されていた制限を行わず、逆に緩和となりました。
事業承継対策・相続対策における活用の仕方
多額の相続税納税が予見されるオーナー経営者は、相続財産を減らすために本制度を活用することは有用です。
また、法定相続人の中に後継者と事業を引き継がない者(非後継者)がいる場合、後継者に自社株や事業用資産を集中的に相続させるため、非後継者に不公平感が生じやすいです。
そのような時に当該制度は後継者と非後継者の間に生じる不公平感を緩和するために有効です。
ただし、注意点としては、住宅取得資金に特化した非課税措置であるため、当然ではありますが、住宅取得目的以外に当該資金を使うことはできません。
また、後継者が住宅を購入してしまうと「小規模宅地等の特例」の適用を受けられなく可能性があります。
「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった方の自宅敷地や事業所の敷地について、他の相続財産同様に相続税の課税を行うと、相続人が納税資金の工面に窮してしまい、自宅や事業所を手放さなければならない可能性もあります。
そのため、「小規模宅地等の特例」を活用して大幅に評価減することで、引き続き、自宅や事業所を使えるように制度設計されています。
この「小規模宅地等の特例」の適用要件は色々ありますが、別居していても持家のない親族であればこの特例の適用を受けられる場合があります。
居住用小規模宅地を子供に相続させる意向であれば「あえて子には住宅を持たせない」という選択肢も考えられます。
実家を相続して住んでほしいのか、実家以外に家を購入したいのか、税金対策のみならず、親族の意向を確認してから、対策を行うようにしましょう。
そのため、事業用の敷地がオーナー経営者個人名義の場合は、事業承継、相続、贈与等をまとめた対策が必要となります。
この制度は、適用期間が2021年12月31日ですので、推定相続人が住宅取得を予定されている場合は、制度を活用するか否か早急に検討しましょう。