業績等の悪化により役員報酬の額を減額するケース
設例
当社(年1回3月決算)は、役員に対して支給する給与について、定時株主総会で支給限度額の決議をします。また、その範囲内で、定時株主総会後に開催する取締役会において各人別の支給額を決定しています。
今期、会社の上半期の業績が予想以上に悪化したことを受けて、株主との関係を考慮し、役員としての経営責任から役員給与の額を減額することとし、取締役会でその旨を決議しました。
このような減額改定は、業績悪化改定事由による改定に該当するのでしょうか。
業績悪化改定事由
業績悪化改定事由とは、当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由です。
法人税基本通達9-2-13において、「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいいます。
そのため、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じていれば、これも含まれます。
業績悪化改定事由の具体例
- ①経営上の責任
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【株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合】
非同族会社であれば、株主からのプレッシャーが大きいと考えられますので、臨時株主総会等の議事録でその事実を説明できます。
しかし、同族会社のように株主が少数のもので占められ、かつ、経営者が株主であったり、株主と役員が親族関係にあるような会社であれば、株主から会社に対して責任追及が厳しいことは考えにくいです。
そのため、同族会社で経営上の責任を理由に役員給与の額を減額する場合には、客観的かつ特別の事情を具体的に説明できるようにしておかなければなりません。
- ②金融機関との協議
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【取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合】
メインバンク等との協議の中で、融資の条件変更(返済猶予や金利の減免等)に応じていただく代わりに役員給与の額を減額する等の協議が行われ、議事録等でその事実を説明できます。
- ③経営改善計画の遂行
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【業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合】
経営改善計画は取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保することを目的として策定されるものですので、利害関係者から開示等の求めがあれば開示する資料です。
また、通常、経営改善計画は金融機関等に提示することが多いため、上記②金融機関との協議と同様に、議事録等と併せてその事実を説明できます。
設例の回答
経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたために行ったものと説明できる限り、業績悪化改定事由に該当するものと考えられます。
したがって、改定前に支給する役員給与及び改定後に支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当します。